今回の屋外ロケ地には開放感あふれる大型バルコニーを選定。この息を呑むような夜景を収めるため、風のタイミングをじっと待ち続けました。怪盗キッドの衣装はカッティングの美しさが極めて重要で、特に白いスーツは少しでもサイズが合わないと着膨れして見えてしまいます。インナーの青シャツには適度なハリ感のある生地をセレクトし、襟元が常にシャープな立体感を保てるよう工夫。ピンクのネクタイも色味にとことんこだわり、理想通りの絶妙なカラーを長い時間をかけて見つけ出しました。写真だからこそ、細かなディテールにも一切妥協したくありませんでした。
一番苦労したのはシルクハットです。全身のプロポーションを崩さないよう、内径とクラウンの高さをミリ単位で調整したため、長時間被っていると頭が締め付けられるほどでした。しかも屋外では風をまともに受けやすく、強風で帽子が吹き飛ばされないよう常に風向きを意識しながらアングルを探る必要がありました。丸型のモノクル(片眼鏡)も同様で、細いコードが長すぎるとフェイスラインを歪めてしまい、短すぎると不自然な表情になってしまいます。コードの位置を細かく調整し直すことで、ようやくあの不敵で魅惑的な笑みを表現できました。
マントを翻すカットは、実に20テイク以上シャッターを切りました。美しい弧を描くよう内側に目立たないワイヤー芯を仕込みつつも、硬くなりすぎないよう、腕を振り抜く初動の勢いと連動させる必要がありました。夜景撮影は明暗差のコントロールが極めてシビアで、背景に広がる街の灯りに対して正面の光を強く当てすぎると、被写体が平坦で薄っぺらく見えてしまいます。そこでソフトボックスを用いた2灯ライティングを組み、サイドからクールトーンの輪郭光を当てることで、暗闇に浮かぶ白スーツの立体感を際立たせ、マントのドレープに自然な光沢を宿らせました。
トランプを手にしたアップ写真は、何度もシャッターを切る中で生まれた自然な一瞬です。カードはほのかな光沢感のある特殊素材で特注し、手袋をはめた指先で力を抜きつつも落とさないよう絶妙な加減で保持しました。夜の冷たい風に吹き晒されながらの撮影でしたが、完成した写真に宿るミステリアスで余裕たっぷりなマジシャンの空気感を見た瞬間、すべての苦労が吹き飛びました。スーツをビシッと着こなすキャラクターは体幹と姿勢の維持が最大の課題で、少しでも背筋が緩むとあの圧倒的な気品が損なわれてしまいます。凛とした立ち姿をキープするため常に肩に力を入れ続けていたので、撮影後は背中全体がバキバキになりましたが、それも魔術師を演じるためのささやかな代償です。夜空の下に刻まれたこの瞬間から、怪盗ならではの神秘的なオーラを感じていただければ幸いです。