雨の日の屋外での夜景ポートレート撮影は、まさに試練そのものでした。本来なら撮影を切り上げる予定だったのですが、水たまりに映る街のネオンやリフレクションを目にして、思わず再びカメラを握り直しました。この写真集はその夜の雨の中で撮り下ろしたものです。今回は撮影時の色彩設計やレンズの使用感について詳しくお話ししたいと思います。
純正85mm F1.8というレンズは、コストパフォーマンスに優れる定番レンズですが、夜景の低照度環境における発色には頭を悩ませられることもしばしばです。ネット上で「色味がパサついて硬い」と評されるのをよく見かけますが、その感覚には強く共感します。黄色い街灯、赤いテールランプ、青緑色の看板など、夜景の環境光は非常に複雑で、高感度撮影時の撮って出しカラーは灰色がかって乾いたトーンになりがちです。とりわけ肌色の描写においては、撮影前のカラーシフトや綿密なライティングを行わないと、レタッチでトーンカーブを追い込むのに多大な労力を要します。今回は肌の透明感を引き出すため、オフカメラストロボで光を補い、カメラ内のホワイトバランスをわずかにシアン・グリーン(青緑)寄りへシフトさせて色被りを相殺しました。ストロボの光が強すぎて人物が背景から浮いてしまわないよう、アシスタントさんに光量を絞ってもらい、現場の環境光が宿す豊かな雰囲気を最大限に残すよう配慮したコスプレ撮影となりました。
衣装はオフホワイトのセーラー服にダークネイビーのプリーツスカート、王道の白ストッキングに黒のローファーというJK制服スタイル。この組み合わせは雨の夜において強烈な視覚的コントラストを放ちます。白ストッキングは夜の街灯やストロボの反射を浴びて美しいレッグラインを描き出し、暗がりの背景の中で白が鮮烈なアイキャッチとなります。写真の中で髪を整える仕草が多く見られますが、これは雨上がりの湿気と強風で前髪や毛先が顔に張り付きやすかったため、いっそのこと髪に手を添えてセットを直す所作をそのままポーズにしたものです。棒立ちになるよりもずっと自然なニュアンスを醸し出せました。黒のレザーショルダーバッグや胸元の身分証カードが、学生らしいリアルな日常感を添えてくれます。
透明な傘は、雨の日の撮影において間違いなく最高の神器です。顔元に落ちる光を遮ることがなく、傘の表面を伝う雨粒の質感をストロボで美しく静止させることができます。歩道橋や階段を歩くと、水たまりが街の光の粒を映し込み、路面の反射光が絶妙なボトムライト(下からの起こし光)として機能し、画面全体のシャドウ部を柔らかく持ち上げてくれました。全身の立ち姿から階段に気ままに腰掛けるポーズまで、膝を軽く曲げたり手すりに斜めに寄りかかったりして脚長効果を引き出すアングルは、カメラマンさんと密に対話しつつ微調整を重ねた成果です。ふと振り返るスナップでは、無理にカメラを見つめないことで、かえってエモーショナルな情緒が引き立ちました。
普段から屋外ロケを多くこなす身として、私はこうしたどこかリアルな気だるさや疲労感を帯びた空気がとても好きです。スタジオ撮影のような完璧無欠の美しさではなく、雨の夜のストリートを実際に歩んできたリアルな息遣い。優れた写真表現とは単なる衣装の見せびらかしではなく、環境、光、そして被写体の精神状態が一体となって初めて生まれるものです。夜景ポートレート撮影は体力を使いますが、仕上がった作品の放つ質感には息を呑むほどの感動がありました。