今回は@猫拒绝了你 さんと一緒に『傷物語』の忍野忍をテーマにした作品を制作しました。企画の立ち上げから最終的な仕上がりに至るまで、およそ半月の時間をかけてじっくり創り上げました。衣装や小道具を準備する間、このキャラクターが抱える「悠久の古さ」と「幼さ」の矛盾したギャップをどう表現すべきかずっと模索していました。途方もない歳月を生き延びてなお少女の姿をしているからこそ、佇まいのバランスを慎重に見極める必要がありました。
金髪のロングウェーブヘアはこのスタイリングの要であり、ヘアメイクさんが毛束に細やかなレイヤーを入れて、風を孕んだような自然なニュアンスを作ってくれました。今回はピンクのキャミソールワンピースをベースに、レトロなパイロットヘルメットとゴーグルをスタイリング。この飛行帽は全体を引き締める重要なアクセントで、無骨な黒レザーと金属の質感が、ピンクのワンピースが放つ柔らかさと鮮烈な視覚的コントラストを描き出します。ゴーグルのレンズが夕陽を浴びて周囲の景色を仄かに反射し、その繊細なディテールをカメラマンさんが見事に捉えてくれました。
ロケ地には打ち捨てられた工業地帯を選びました。剥き出しの鉄骨構造、配管、赤錆びた手すりといった重工業特有の冷徹な空気感が、物語の持つ重厚なストーリー性を力強く引き受けてくれます。こうした場所は衣装のクオリティが如実に試されますが、灰色と赤錆に囲まれたピンクのドレスは儚くも異質に浮かび上がり、キャラクターの危うさと危険な魅力の同居を見事に体現してくれました。
当日の天候はこれ以上ないほど恵まれ、沈みゆく夕陽のゴールデンアワーに立ち会うことができました。空がオレンジとピンクのグラデーションに染まり、メタリックな建造物に柔らかな暖色の光が回ることで、重厚な景色に温もりが添えられ、閉塞感が心地よく緩和されました。理想的な光と影を捉えるため鉄の手すり沿いで何度も画角を調整し、光の入射角を探るだけでなく、風の流れを読んで前髪が顔に張り付かないようタイミングを計りました。
完成した写真の中で、手すりに身を預けて振り返るカットは一番のお気に入りです。複雑なポーズを排し、ただ視線を投げかけるだけで、背負った宿命の重みが静かに伝わってきます。シャッターを切った瞬間、夕陽のハレーションがレンズの縁に柔らかなフレアを描き、吸い込まれるような透明感を生み出してくれました。「それは血の物語。血に濡れて赤く、血が乾いて黒い、決して癒えぬ私たちの尊い傷の物語」という言葉の通り、過剰な身振り手振りは避け、微細な表情と視線の対話だけで、表層の静けさと心の奥底の深淵を描き出すことに注力しました。「傷」というテーマに寄り添うため、悲哀を過度に誇張せず、気の遠くなるような時間を越えてきた者だけが持つ静謐な澄んだ瞳を意識しました。
撮影技術の面でも、工業地帯の硬質な光をどう制御するかがポイントでした。自然光をメインに据えつつ、レフ板の補助光を極力抑えることで、夕暮れ本来の空気感を大切に残しました。布地が夕暮れ時に見せる繊細な光沢を活かすため、現像段階でもハイライトの暖色系を美しく保持し、暗部を不自然に潰さずに黄昏時特有の抜け感を追求しました。衣装の組み合わせからロケーションの選定に至るまで、作品ならではの独特な息遣いを追求した、非常に充実した屋外ロケとなりました。