今回の撮影における準備の核心は、清宵ならではの「剣招の構え(起手式)」をいかに体現するかにありました。一触即発の緊張感の中に冴え渡る冷徹な気品を正確に捉えるため、撮影前のリハーサルだけでも半日近くの時間を費やしました。この所作は清宵の「これは私が修練の道へ踏み出す前に慣れ親しんだ剣招」という台詞に由来しています。ポージングの設計においては、大振りな力任せの動きをあえて排し、手首の返しとしなやかな体幹の制御に全神経を集中。ここから始まる立ち合いは共鳴力の多寡ではなく、純粋な剣法と研ぎ澄まされた心力の競い合いだからです。
まずは衣装とプロップについて。清宵の装いは淡い青と純白を基調とし、シフォンや薄紗、繊細な地紋入りの生地が幾重にも重ねられています。流れるリボン(飄帯)が極めて多く、歩みを進めるだけで容易に絡み合ってしまうため、画面に理想的な浮遊感をもたらすべく大型の送風機を2台配備。リボンが顔に張り付かず自然にしなやかな弧を描くよう、風速の微調整には並々ならぬ忍耐が求められました。青く発光する長剣は特注品で、蛍光素材が冷涼なライティングと共鳴し、まるで氷晶や清流が凝固したかのような澄んだ質感を放ってくれました。足元には白のハイヒールに白ストッキングを合わせ、水を打った高反射フロアの上で重心を保ち立ち続けるのは、それだけで汗ばむほどの体幹勝負でした。
空間演出にも妥協のないこだわりが息づいています。静謐の中に研ぎ澄まされた凛烈な空気を醸し出すため、美術スタッフが白い花樹、重厚な山水石(築山)、そして左右対称の石灯籠を配置。石灯籠から零れる温もりある暖色の光が、背後の巨大な月面ライトや周囲を包む幽玄な蒼い環境光と鮮烈な寒暖のコントラストを描き出しました。床面には特殊な素材を敷き詰め、水を撒いて照明と被写体の倒影を反射させることで、画面の奥行きを劇的に深めました。
撮影中、極めて印象深かった所作がいくつかあります。空中へと跳躍しながら片手で印を結ぶカットは、軽やかな仙女のように映る一方、実際には強靭な体幹で一瞬の姿勢を支え切ったものです。ワイヤーなしで空中に留まる刹那、顔の筋肉を制御して口元に余裕ある微かな笑みを浮かべ続けることは、体力と表情管理の極致でした。着地の際もヒールと滑りやすい水面フロアに細心の注意を払い、転倒による衣装の水没を回避しました。
黒い茶杯を手にした着座カットでは、理想的なもたれかかりの角度を探る過程で粗い岩肌に擦れ、白ストッキングをわずかに引っ掛けてしまうハプニングもありましたが、レタッチ工程で見事に美しく補正されました。本シリーズの光は極めて階調豊かで、主光が顔立ちの陰影を照らし、サイド逆光が髪の毛先やリボンの縁に繊細な光輪(ハロー)を描き出しています。
撮影機材にはソニーA7M5に2本の銘レンズをセレクト。FE 24-70mm F2.8 GM IIで環境を取り込んだ全身や引きの構図を抑え、FE 70-200mm F2.8 GM OSS IIで被写体の接写とパースの圧縮を行い、背景のボケ味を極限まで滑らかに演出しました。カラーグレーディングでは青とシアンの階調を際立たせ、ハイライトをわずかに抑えて全体を研ぎ澄まされた寒色へ導きつつ、灯籠の暖色を優しく残しました。
準備から完成に至るまで多くの試行錯誤を重ねたこの清宵の作品群が、衣装の細密な再現と研ぎ澄まされた所作を通して、剣技と精神性が交錯するあの美しき武侠の世界を皆様の心へ届けることができれば幸いです。