今回の撮影テーマは夜の都市廃墟に設定し、深夜の漆黒の闇と寒色系のライティングを活かして、王道の無垢な天使像とは一線を画す独特のビジュアルを構築することを目指しました。大天使コスプレとしてのスケール感を具現化するため、用意した白い羽根の翼の小道具は非常に巨大なサイズ感となりました。ふんだんな羽毛とラメ入りチュールメッシュで精巧に作られており、背負う際にはショルダーストラップの荷重バランスを細かく調整する必要があり、身体の自由も大きく制限されました。衣装はあえてシンプルな白のキャミソールドレスに白のレースアップヒールサンダルを合わせ、重厚な翼の存在感の下でボディラインをすっきりと際立たせる構成にしました。
ロケーションの選定は写真の仕上がりを大きく左右しました。あえて洗練された屋内スタジオを避け、粗いコンクリートの地面と冷たい鉄柵が交錯する屋外の廃墟風スペースを選びました。武骨なコンクリートや無機質な金属の手すりと、柔らかく純白な羽毛が織りなす強烈な異素材の衝突が画面に緊張感をもたらしてくれます。レンズの前では多彩なポージングを試みました。今回はしゃがみ込むポーズを多用しましたが、これは巨大な翼の広がりを美しく収めつつ、脚のラインをすっきりと伸ばしてヒールと合わせることでスタイルを長く見せる効果を狙ったものです。表情作りにおいては過度な笑顔を排し、唇をわずかに開けて見上げる仕草や、横顔越しに振り返る視線、レンズを真っ直ぐ見据える静かな眼差しを通じて、冷ややかで触れがたく、どこか壊れそうなムード写真を追求しました。
夜景ポートレートの撮影は、足場の悪さと圧倒的な光量不足を克服せねばならず、カメラマンとモデル双方にとって過酷な体力勝負となります。カメラマンは高出力のロケーション用ストロボを正面から照射し、硬質な直射光で闇の中から被写体をくっきりと切り離してくれました。おかげで羽毛の一本一本のテクスチャやチュールの細やかな輝きが余すところなく捉えられています。寒色の白色光が衣装や翼に当たり、深淵な闇の背景と極めて高いコントラストを描き出しました。地面の粉塵や舞い落ちた羽毛までもが光の中に克明に浮かび上がっています。
撮影中の最大の難関は小道具の運搬と姿勢の維持でした。巨大な翼は夜風を孕んでバランスを崩しやすく、常に肩と背中の体幹を意識しつつ、しゃがみや座りのポーズを凛と保つために腹筋に力を入れ続けました。硬いコンクリートの上でヒールを履きながら立ち位置をミリ単位で調整するのにも細心の注意が必要でした。美しい輪郭光を捉えるためストロボとの距離と角度を何度も微調整しました。レタッチにおいても事前の設計意図を忠実に反映させ、ハイライトと冷涼な青みを美しく残しながら背景を大胆に暗く落とし込むことで、白を基調とした被写体をシャープに際立たせました。体力の消耗は大きかったものの、光と影が紡ぎ出した研ぎ澄まされた冷たさと美しさを目にした瞬間、すべての準備と苦労が報われたと確信しました。