今回の『鳴潮』今汐の「桃の夭夭たる」をテーマにした撮影は、構想から実現まで約1か月を要しました。まずは衣装の細部についてですが、メインはオフショルダーの改良型中国風ドレスで、ピンク、ブルー、ホワイトのグラデーションが見事に調和しています。胸元の金と赤の配色に加え、ウエストのコルセット風デザインが美しい立体感を生み出しています。背中の帯リボンと広がりのある大きな袖は撮影中にこまめな手直しが必要で、少し油断するとすぐに重なって形が崩れてしまいます。ウィッグは白髪にピンクのインナーカラーが入ったものを選び、金色の額飾りやピンクの花飾り、首元のフラワーネックレスも原画のディテールに忠実に特注しました。全体の色合いは肌をとても白く見せてくれ、微光沢のあるサテン生地は強い光の下で上質な艶めきを放ちます。衣装の美しいシルエットを保つため何重ものインナーを重ねており、暑さの中での撮影は大変でしたが、完成度を追求する上では惜しくない苦労でした。
セットはピンクの桜をメインに構築しました。「桃の夭夭たる」の世界観に合わせ、ピンクと白の花枝を無数に飾り付けた大きな桜の木を配置。背景には円形のムーンライトを設置し、夜や早朝のような神秘的な雰囲気を演出しました。小道具には竹の筏とブランコを取り入れ、足元には水面とドライアイスの白煙を漂わせ、傍らにはアンティーク調の木製茶机や鳥かごを配して画面に奥行きを持たせました。ライティングに関しては、桜のピンクに寄り添う温かみのあるイエローをメインライトとしつつ、人物の輪郭にはクールなライトを当てました。こうすることで白髪と衣装の陰影が際立ち、暖色系の光の中で白髪が背景に溶け込んでしまうのを防いでいます。
当日の撮影は体力的にもかなりハードでした。ブランコは重心を保つのが難しく、少し動くだけで揺れてしまいます。スカートの裾や髪がふわりと舞う瞬間を収めるため、バランスを取りながら体をわずかに後ろへ反らせる姿勢を保ちました。竹の筏の上に裸足で立つのは足裏が少し痛かったものの、画面に軽やかさを宿すために妥協せず挑みました。靴を履いていない分、足先のディテールがフォーカスされるため、爪先をピンと伸ばして脚のラインを美しく見せる工夫も凝らしています。指先の繊細な仕草はキャラクターの原画を意識し、指先をそっと重ねたり軽く持ち上げたりして、自然な所作を心がけました。風が通り抜けてリボンと髪が同時に揺らぐ瞬間を逃さず、カメラマンさんが生き生きとしたカットを数多く捉えてくれました。ブランコでのベストショットを切り取るためだけに、30分以上もポージングを繰り返しました。
ブランコに腰掛けた1枚でレンズを見つめていた時、私の心には「春が巡り来る中、誰とともに過ごすのか。桃の夭夭たる美しさに揺れる絹糸」という情景が浮かんでいました。今汐というキャラクターには凛とした冷たさと包容力のある優しさが共存しているため、表情は控えめにし、満面の笑みではなく少し距離感のある眼差しを向けつつ、桃色の花と温かい光に春らしい柔らかさを溶け込ませました。メイクも工夫し、アイメイクにはほんのり赤みを差し、リップも赤寄りのトーンを選びました。強いライティング下でも顔立ちの立体感が失われないよう、シェーディングとハイライトはしっかりと効かせています。
撮影は、衣装の乱れを整え、ウィッグを直して角度を探る作業の連続でした。ブランコのカットの構図は特にお気に入りで、竹筏の直線と背後の桜の枝が美しく交差し、見事な奥行きが生まれています。背後の月光が人物の輪郭をふわりと縁取り、裸足で竹筏に佇む姿は、靴を履いた完璧な装いとは一味違う自然体な情緒を醸し出しています。コスプレにおいて衣装の再現は基本ですが、より大切なのは設定された世界観の中でキャラクターが放つ空気感をレンズの前で描き出すことです。今回の「桃の夭夭たる」への挑戦は、光と色の表現において新たな糧となりました。レタッチでも元画像の質感を最大限に尊重し、ピンクとブルーの透明感を引き立てつつ余計なノイズを抑えて統一感を持たせました。