あの日、イベント会場の2階スタンド席をぶらぶら歩いていたところ、一面のガラスカーテンウォールのそばに辿り着きました。午後の拡散光がとても柔らかく差し込み、ガラス越しには階下を行き交う賑やかな人々の気配がほんのりと透けていました。もともとここで本格的に撮影する予定はありませんでしたが、このロケーションが下江コハルの衣装の空気感にあまりにもマッチしていたため、急遽その場で何枚かシャッターを切ってもらいました。
下江コハルのこのコスプレ衣装について触れると、細部まで随所にこだわりが散りばめられています。淡いピンクのオフショルダーブラウスには黒のレースフリルがあしらわれ、襟元の黒いリボンが視線を集めるアクセントになっています。ウエストを飾る黒のレースアップコルセットは全体の要とも言えるパーツで、抜群の着痩せ効果を発揮しつつ、裾からのぞく繊細なレースが下の多層プリーツスカートへと美しく繋がります。スタイルを統一するため、足元には黒のオーバーニーソックス(黒ストッキング)とエナメルの厚底チャンキーヒールを合わせ、かかとのリボン飾りで上半身との親和性を持たせました。頭上のピンクの幾何学ヘイローや両脇の小さな黒い翼は軽量素材で作られており、重さはないものの固定には工夫が必要で、撮影中も風で傾いてしまわないよう気を配りました。
イベントホール内ということもあり、ガラスの反射の処理が撮影における最大の難所でした。反射面に真正面から対峙するアングルは意図的に避け、サイドからの逆光を活かして人物の輪郭を際立たせる手法を取りました。床に腰掛けてガラスに身を預けるカットでは、硬い床の上で脚のラインと黒ストッキングの質感を綺麗に見せるため、脚を自然に伸ばせるよう何度も体勢を調整しました。立ち姿では手の置き場が欲しかったため手すりを活用し、片足をわずかに後ろへ引いて浮かせることで、静的な構図に軽やかなリズムを加えています。
下江コハルらしさを引き立てるため、メイクは目の下のチークを強調し、ピンクのカラーコンタクトと合わせて、ほんのりあどけなさが残る表情を意識しました。ツインテールウィッグもカットとスタイリングを重ね、不自然に固まりすぎない柔らかなシルエットに仕上げています。表情作りにおいては無理に甘く微笑むのではなく、どこか控えめで好奇心を秘めた眼差しを保つことで、ダークスウィートな世界観との調和を図りました。
人が密集するイベント会場で誰もいない背景を探すのは至難の業ですが、このガラス張りの通路はまさに嬉しい偶然の産物でした。大掛かりな小道具に頼ることなく、光と影、そして空間が描く幾何学的なラインだけで画面を構成できたと感じています。軽やかに見える衣装ですが、幾重にも重なる生地やコルセットの締め付け感にはそれなりの慣れが必要で、特に座ったり立ち上がったりするたびにスカートのプリーツを整える手間もありました。また機会があれば、夕暮れ時の屋外の自然光の下でもこの衣装を撮影してみたいです。きっとまったく異なる情緒的な光と影が生まれるはずです。