今回のヴィラードの衣装は、手元に届いてから実際のロケ撮影に挑むまで、細部の微調整にかなりの熱量を注ぎ込みました。ワインレッドのジャケットはずっしりとした重厚な風合いで、ゴールドの縁取りが光を受けて華やかな輝きを放ちます。原作特有の近寄りがたい貴族の気品を表現するため、寒色寄りの赤いカラコンを選び、銀灰色のウィッグと合わせました。前髪の長さやもみあげの毛先は何度もハサミを入れて調整。短すぎると輪郭に馴染まず、長すぎると目元を覆って感情の機微が伝わらなくなってしまうからです。メイク面でもチークの血色感をあえて抑え、アイラインとアイシャドウの深みを強調することで、吸い込まれるような彫りの深い眼差しを追求しました。尖り耳のプロップは直接耳に挟み込む仕様で、長時間の着用による痛みを伴いましたが、幻想的な人外の記号性を成立させるためなら惜しくない一手間でした。ワイングラスを傾けるカットではカメラマンさんと何度も角度を吟味。中身はぶどうジュースですが、クリスタルガラスのカット越しに透ける赤い光彩が、吸血鬼というキャラクターのアイデンティティと完璧に響き合いました。手袋はこのスタイリングの中でも特にお気に入りで、手元を包むだけでグラスを持つ所作に自然と貴族らしい品格が宿り、座りポーズでも背筋をピンと伸ばして布地の余計なヨレを防ぐ意識を徹底しました。
インナーの白シャツの襟元とオレンジのタイも入念な調整が必要でした。ジャケットの襟が硬く自立するため、シャツの襟をきれいに収めないと首元が詰まって見え、スタイル全体のバランスを崩してしまうからです。黒のレザーパンツは着席時にテカリが出やすいため、カメラマンさんがサイドからの逆光を巧みに回し、光の反射を抑えて視線を上半身の制服や金の装飾へと自然に集めてくださいました。ポージングを重ねる中で、グラスを見下ろす角度がふとこぼれる冷徹さを最も美しく引き出し、レンズを真っ直ぐ見据えるカットでは揺るぎない眼差しの力が試されることを発見しました。撮影全体を通して室内のクラシックなダークウッドの調度品を背景に活かし、アンティークな彫刻や金彩の文様が衣装の格式高い美しさと見事に共鳴しました。世界観と異なる大きなぬいぐるみも、背景で柔らかくぼかすことで画面に程よい抜け感をもたらしてくれました。グラスを片手で持つか両手で包むかなど、所作によるニュアンスの違いも追求。片手持ちは優雅な余裕を醸し出し、両手持ちはどこか警戒心や執着を感じさせます。カメラマンさんが常に自然体かつ傲岸なオーラを引き出すよう的確にリードしてくださいました。
撮影の合間には中国アニメ・漫画の歩みについても語り合いました。『暗夜協奏曲』は初期の代表的な名作であり、登場人物たちの意匠は今見ても色褪せない唯一無二の求心力を持っています。当時の作品は、この王道たるワインレッドとゴールドの調和や、西洋ファンタジーの尖り耳と吸血鬼の設定など、先進的で大胆な挑戦に満ちていました。ウィッグが潰れて見えないようセットスプレーでふんわり感をキープし、分け目の位置もカメラアングルに合わせて微調整を施しました。タイトな制服美を際立たせるため、静止画としての完成度を損なわないよう穏やかな呼吸を意識。気だるげでありながら威圧感を宿す姿勢を維持し続けるのは背筋や肩に強い緊張を強いるハードな作業でしたが、モニターに映し出された息を呑むような仕上がりを目にして、注いだこだわりのすべてが報われたと確信しました。カメラマンさんとの呼吸も完璧で、小道具が醸し出す世界観の支えもあり、時代を彩った記憶のキャラクターを自身の解釈で表現できた非常に実り多き撮影となりました。