長尾山・妙楽寺の紫陽花が見頃を迎えた2024年6月22日、私は富士フイルムX-T4と35mm単焦点レンズを手にこの風情ある古寺を訪れ、平成18年のオールド写真の質感を再現すべく『東方Project』東風谷早苗 コスプレの撮影を開始しました。
平成の記憶とAPS-C機ならではのレトロ撮影というテーマを掲げたことで、カメラセッティングは非常に面白い工程となりました。X-T4は情緒的な色転びの表現に長けており、35mmという王道の画角も相まって安定したショットを量産。APS-Cの大口径開放による適度な前ボケと芯のある中遠景の描写が、淡いノスタルジーを醸し出しました。さらに富士フイルム独自のフィルムシミュレーションを活用し、彩度とシャープネスをわずかに落としてグレイン(粒状感)を加えることで、当時の実写プリントのようなリアリティに近づけました。
衣装には深みのあるネイビーの制服ベストとミニスカートを選び、白シャツと黒のニーハイストッキングをコーディネート。落ち着きがありながらも沈まない色合いが、色鮮やかな花々の中で主役としての存在感を際立たせました。ウィッグはくすみ感のあるライトグリーンを採用。日差しの下で浮いてしまわないか懸念していましたが、逆光に照らされたエッジの輪郭光(リムライト)が驚くほど美しく映えました。小道具には肩に巻きつける白蛇と紙垂のついた扇子、羽根飾りのついた黒バッグを用意。持ち運ぶには相応の重量がありましたが、世界観を完成させるため手元に添えて撮影に臨みました。
撮影は忍耐力が試される場面の連続でした。妙楽寺の境内には数々の地蔵菩薩像や石灯籠、香炉が佇んでおり、漢字が刻まれた石碑の前では両手を合わせて目を閉じ、厳かな表情を意識。鐘楼の前で撮影したカットでは、構図がタイトになりすぎて被写体がフレームアウトしたり手前の紫陽花に隠れたりしないよう、小道に佇んだり花叢の中へ足を踏み入れたりと位置を細かく調整しました。35mmレンズでは花々との距離感を常にコントロールし、前ボケの葉や花びらで絵画のようなボケ味を作りつつ、人物の細部ディテールが埋もれないよう配慮しました。
撮影中は、平成初期〜中期のスナップ特有のわずかに黄緑がかったシャドウの階調を探り続けました。青紫に煙る紫陽花を背景に少し体を斜めに開くことで、自然光を受けたニーハイストッキングの質感が極めてリアルに描写されました。衣装や小道具の主張を適度に抑え、モデルの立ち姿と環境との調和で視線を誘導。香炉の前で祈りを捧げる全身カットでは、画面の縦3分の1の位置に人物を配置し、黒いストッキングの足元がもたらす視線誘導によって右側の寺院建築と絶妙なバランスを取り、東風谷早苗ならではのひたむきで清廉な気品を表現しました。
最終的に大がかりなレタッチは行わず、光学レンズが生み出す階調と富士フイルムならではのフィルム色調を最大限に活かしました。傍らの紅葉がほのかに色づき始め、新緑や紫陽花との心地よい寒暖のコントラストを描出。ファインダー越しに理想の空気感を捉えることができた、充実の紫陽花撮影・東風谷早苗 コスプレの記録となりました。