今回の重慶でのロケ撮影は、ミュルジス特有のどこか神秘的で飄々とした魅力をしっかりと引き出すことができました。「ドクター必訪の地」と名高いこのロケーションは、巨大なトップライトから自然光が降り注ぐ屋内空間です。放射状に広がる白い曲線のフレームは、まるで巨大な怪物の肋骨かSF映画の発着ドックのよう。天窓からの光が天然のソフトボックスのように頭上から降り注ぐ一方、周囲を取り囲むダークトーンの壁面や階段が光を遮り、ドラマチックな明暗のコントラストを描き出してくれます。
この無機質でサイバー感漂う空間に合わせ、小道具と衣装のディテールにも工夫を凝らしました。鮮やかなグリーンの雨傘は、画面全体の視線を引きつけるアンカーの役割を果たしています。現場のベースカラーが黒・白・グレーで構成されているため、被写体に高彩度な差し色を取り入れなければ背景に埋もれてしまいかねません。グリーンはキャラクター自身のモチーフと一致するだけでなく、衣装にあしらわれたネオングリーンのストラップとも美しく呼応しています。手に持ったユニークなマスコット人形も撮影用に用意したもので、画面に物語性と動きを添えてくれました。強い光の下でも衣装の質感が損なわれることなく、コートのドレープや黒のショートパンツのカッティングが光と影の中に美しく際立っています。
今回の撮影は自撮り・セルフリモートで行ったため、画角やリモコンのシャッターを管理しながら、レンズの前でポーズを微調整し続ける必要がありました。階段の上に立ち、軽く顎を上げて見上げる姿勢を取ることで、建築特有の奥行きを生かして立ち姿をよりすらっと見せました。躍動感あふれる瞬間を捉えるため、片足立ちや軽く宙に跳び上がるポーズを試し、スカートの裾や傘の天幕にふわりとした自然な動きを持たせています。一人での撮影ゆえに、リモコンを押してから定位置に戻るまでのタイミングを正確に計算しなければならず、理想のジャンプの瞬間を捉えるために何度もやり直すなど、かなりの体力を消費しました。
ライティングのコントロールは今回の撮影の最重要ポイントでした。真上からの強い光は顔の白飛びを招きやすいため、あえて光が届く境界付近に立ち位置を取り、壁や床の反射光を利用して顔立ちを柔らかく照らし出しつつ、衣装のシャドウ部のディテールをしっかり残しました。暗いトーンの前ボケの中に人物を収めるため、輪郭のシャープさには細心の注意を払っています。トップライトによって目元や鼻の下に濃い影が落ちないよう角度を何度も調整し、顔を反射光の方向へと向けるよう意識しました。厚底ブーツを履いたまま階段の上でバランスを取り続けるなど、根気と体力が求められる現場でしたが、仕上がった写真の中で冷涼な空間に鮮やかなグリーンが映え、舞台のような立体的な構図が完成したのを見たとき、すべての苦労が報われたと感じました。重慶のこのロケーションは評判通り素晴らしく、建築美と光の条件の両面で、サイバーパンクやSFテイストの作品作りに絶好の舞台でした。幾何学的な構造線と力強い明暗の対比を巧みに生かせば、複雑な照明機材に頼らずとも奥深い階調を持った写真を創り出すことができます。