今回は郎園Stationの屋上を舞台に、「恋は雨上がりのように」をコンセプトにした雨の夜の雰囲気(Rainy night atmosphere)漂う撮影を敢行しました。夏の訪れとともに屋上夜景のポートレート撮影が賑わいを見せる中、喧騒に満ちたロケーションで静謐な佇まいを紡ぎ出すには、環境の要素を削ぎ落とす「引き算の美学」が不可欠でした。ロケハンの結果、従来の快活でエネルギッシュな表現を潔く手放し、内省的で詩情あふれる感情ポートレート(Moody portrait photography)の路線へと舵を切りました。
このセンチメンタルな情緒に寄り添うべく、衣装には王道のクラシカルなセーラー服(Sailor suit)をセレクトし、胸元に赤いリボンタイ、ボトムスに濃紺のプリーツスカートをコーディネート。首元には白のオーバーイヤーヘッドホンをラフに掛け、スタイリングに現代的なレイヤード感をプラスすると同時に、被写体の存在感を際立たせました。物語性を一層深めるため、屋上の空間に無数の透明な傘(Transparent umbrella)を配置。宙に開いて吊るしたものや、濡れたデッキの上に無造作に散らした傘のクリアなビニール素材が夜間の街明かりを浴びて艶やかにきらめき、夜景撮影特有の画面の沈み込みを見事に解消してくれました。
撮影機材としては、23mmと56mmの単焦点レンズを用意し、最終的に「XF 56mm F1.2 R WR(2型)」が現場で息をのむような描写力を発揮。超大口径レンズならではの極上のボケ味が、背景の乱雑な光のノイズを柔らかな玉ボケへと昇華させ、複雑な都市景観の中から主役の少女をドラマティックに浮き立たせてくれました。富士フイルム「X-H2」の撮って出し(フィルムシミュレーション)の発色は、冷暖の明暗対比が激しいシチュエーションにおいて抜群の安定感を誇示。メインのバックライトとして暖色アンバーの定常光を背後や斜め後方から照射し、傘のビニールを透過させることで夕暮れの残光のような温もりを創出。対して正面には夜の街が放つ冷涼なブルーの環境光を拾わせ、この冷暖が美しく交錯する光影設計により、画面に映画のワンシーンのような重厚な叙情性を宿しました。
当日は本物の大雨に見舞われ、さらにスプレー器具で細やかな霧雨を補填することで、傘の表面や床面を瑞々しく濡らしました。水滴が無数に付着した透明な傘に光が差し込んだ瞬間、視界一面に星屑が散りばめられたような幻想的な情景が完成。モデルさんにはそっと手のひらを伸ばして雨粒を受け止めさせたり、重なり合う傘の群れの中に膝を抱えてしゃがみ込ませたりと、カメラを過剰に意識させず感情の揺らぎをそのまま自然体に委ねました。光を浴びた傘の骨組みが描く幾何学的なラインは、構図において被写体へと視線を導く最高のリーディングラインとして機能しています。
撮影の締めくくりには、チェキ(インスタントカメラ)を用いて横構図の刹那を記録。銀塩フィルム特有の粒子感と独特の色転びは、デジタル一眼カメラが捉えた緻密な光影とは全く異なる情緒を湛えていました。デジタルが高精細な雨粒のキレと冷たい光の階調を描き出す一方で、インスタントフィルムは雨夜の湿り気とノスタルジックな記憶の余韻を濃密に定着させてくれました。今回の撮影を通じて、JK制服(JK uniform)のセーラー服とは単なる活発さや愛らしさの象徴にとどまらず、計算された光影と天候の演出によって、静かな禁欲と雨の夜にしか現れない無二の静謐さを雄弁に物語る表現媒体となり得ることを深く実感しました。