今回の廣井きくりのスタイリングを決定した瞬間から、私の頭の中には極めて鮮明なビジュアルイメージが広がっていました。このキャラクターの真髄は、常にほろ酔い気分で自堕落に見えながらも、心の底から音楽を愛してやまないという強烈なギャップにあります。その個性に寄り添うため、ヘアメイクや所作の設計に徹底してこだわりました。ピンクの長い三つ編みおさげに八重歯(吸血鬼の牙)を装着し、手首に施したトレードマークの太陽タトゥーを合わせることで、ちょっぴり危うくも人を惹きつけてやまない独特の色香が一気に立ち上がりました。衣装にはグレーのキャミソールに白黒のスタジャンを合わせ、肩を落としてルーズに着崩すスタイルを採用。いつでもどこでもハイテンションになれる彼女の奔放で飾らない性格を表現しています。
小道具においては、ナチュラルウッドカラーのプレシジョンベースが紛れもない主役です。撮影中はずっと、ベースをまるで唯一無二の親友のように抱き寄せる感覚を模索し続けました。屋内のバーのロケーションでは、快く撮影場所を提供してくださった天天オーナーに心から感謝しています。重厚な木製カウンター、仄暗い暖色系の間接照明、そして背後の棚にずらりと並ぶ酒瓶が、空間そのものに豊かな物語性を与えてくれました。カウンター席に腰掛けて瓶ビールを傾けたり、テーブルに突っ伏して虚ろな瞳でレンズを見つめたりと、カメラマン様が千鳥足寸前の無防備な瞬間を的確に捉えてくれました。傍らに置かれた生ビールジョッキや日本酒の紙パック(おにころ)も手伝って一瞬で役へと没入でき、今にも大声で「かんぱーい!」と叫び出したくなるほどの高揚感に包まれました。作為的なポーズを作ろうとするのではなく、「ライブ後に心地よく泥酔したロックベーシスト」そのものになりきることで、自然な仕草が次々と溢れ出しました。
屋外のバーの夜景ロケでは一転して異なる表情を展開。LED電飾が埋め込まれた階段や賑やかな商業エリアをロケ地に選びました。夜の街を染めるクールトーンのネオンサインと鮮烈なピンク髪が見事な色彩対比を描き出します。光るステップに腰掛けてベースを爪弾くカットでは、脚のラインを自然に伸ばし、地面からのフットライトを浴びることで、大都会の夜に一人ベースを響かせる孤独と自由が交錯する情緒を醸し出しました。黒いギグバッグを背負ってストリートを気ままに歩いたり、紙パック酒を掲げて夜空を見上げたりする所作を通じ、ステージの外で見せる等身大の生活感を表現しています。
今回の梅州での撮影依頼は、非常に特別で濃密な体験となりました。夜間撮影は環境光と顔周りの補助光のバランスを取る難易度が高い現場でしたが、あの心地よい酩酊感を視覚化するため、ダッチアングル(斜め構図)を多用し、レンズの美しい玉ボケを活かして幻想的で気だるい空気感を構築。撮影中もプロのベーシストとして違和感のないよう、弦を押さえる指先や構え方を念入りに確認し、リアリティを追求しました。まさに本領発揮とも言える没入感の中で、アニメの中の愛すべきロックな呑んだくれを現実世界へと引きずり出し、音楽とアルコールに溺れる無邪気な自由を写真へ封じ込めることができた、最高に痛快な創作時間となりました。