当日のロケ計画は、突然の豪雨によって完全に白紙となりました。映像制作の締め切りが迫っており再延期も叶わなかったため、急遽スタジオへ駆け込みスタジオ撮影を敢行することに。当初は野外ならではの荒涼とした廃墟感が失われてしまうのではないかと不安でいっぱいでしたが、海猫先生が照明を落とし込み、十字架や鉄鎖、一面に敷き詰められた白百合が照らし出された瞬間、息の詰まるようなダークゴシックの陰鬱な気品が一気に立ち込めました。
今回挑んだのは『リバース:1999』のカロン。戦場を彷徨い、戦禍によってすべてを奪われ、本能と記憶だけが残された彼女の壊れそうな孤独を体現するため、ヘアメイクや小道具の仕込みに並々ならぬ情熱を注ぎました。重厚な白い布地を何重にも纏い、長いヴェールで顔を覆い隠したことで、視界の狭さがかえって生と死の狭間を漂うような幽玄な没入感を後押ししてくれました。白手袋にはわざと生々しい血痕加工を施し、戦没者の名簿が刻まれた遺品であるかのように重い黒い古書を腕に抱きました。寒色系の画面の中で、赤いポピーと白い菊のコントラストはあまりに鮮烈で、戦火に呑み込まれた命が遺した最後の血飛沫のように胸を刺します。
撮影における最大の難所は、重い衣装の束縛を受けながら、身体の所作だけで虚無と疲弊をいかに表現するかという点でした。表情が見えないからこそ、指先の微細な震えや、頭を垂れて黙祷を捧げる姿勢、花を抱える手の力加減に感情のすべてを託しました。肩に食い込む冷たい鎖の重みと、首を傾けるたびに走る強張り。その肉体的な負荷こそが、キャラクターが背負う運命の重みを肌で理解させてくれたのです。冥府の河を独り渡る旅人の孤独を紡ぐため、スタッフ全員でスモークの立ち込め方や光芒の差し込む角度をミリ単位で調整し、肩先に落ちる一筋の輪郭光に至るまで極限の美を追求しました。
複雑な布地や鉄鎖を終始整え続けてくれた阿司、そして巧みなタイポグラフィで写真に魂を吹き込み世界観を一つに束ねてくれた煉煉先生に心から感謝します。雨は撮影者にとって時に試練となりますが、この大雨が外界の喧騒を洗い流してくれたからこそ、閉ざされたスタジオの中で生と死、そして追悼をめぐる夢を純粋に紡ぎ出すことができました。ロケが叶わなかった心残りはあったものの、運命に引き裂かれた静寂が息づく完成写真を目にした瞬間、すべての奔走が報われたと実感。戦争の爪痕を抱え、記憶だけを留める器となったカロンの虚無を誠心誠意再現できたと思います。共に熱狂してくれた仲間たち、そして予期せぬ雨の中でも諦めなかった自分自身に感謝を捧げます。